AI ROI設計ガイド|製造業AI導入で投資効果を最大化する実践テンプレート

この記事でわかること

✓ 製造業AI導入のROIを正しく設計・測定する方法を体系化
✓ 短期・長期のROI測定フレームと投資効果321%の試算例を解説
✓ OEE・品質・エネルギーの3指標で投資効果を可視化

2025年09月26日

AI ROI設計ガイド|製造業AI導入で投資効果を最大化する実践テンプレート

「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、製造業のAI投資は「熱いうちに計算せよ」と表現すべきかもしれません。投資熱が高まるほど、ROI算出が軽視されがちだからです。

皆様は、AI投資の成果を「感覚」ではなく「数値」で判断できていますか?

本記事では、製造業AIのROIを最大化するための測定と設計の具体的手法に焦点を当てます。

AI導入におけるROIは単なる計算式ではなく、投資の成否を左右する経営判断基準です。

『日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2024年に1兆3,412億円(前年比56.5%増)となっており、今後も成長を続け、2029年には4兆1,873億円まで拡大すると予測』されています([1]総務省『令和7年版 情報通信白書』、脚注省略)。この成長の背景の一つには、AIが「ROIを測定できる投資対象」であることが挙げられるでしょう。

AI導入を先送りすることは、短期的にはコスト回避のように見えます。しかし中長期的には、競合企業との生産性・コスト競争力の差を拡大させ、取り返しのつかない機会損失となりかねません。

製造業AI導入におけるROIの特殊性

SAS Institute Japanのプレスリリースで紹介された IDC の調査によれば、40%の組織がAI投資について3倍以上の投資対効果を期待しており[2]、経営層がAIを「確実な収益源」として位置づけていることを示唆しています。

しかし、こうした期待の高まりとは裏腹に、ROIの算出や検証が不十分なまま投資が進められるケースもあるのが実情だと思います。

それは、ワインリストを確かめずに高級レストランでボトルを頼むようなものです。後になって請求書を見て冷や汗をかくことになってしまうでしょう。

そんな事態を防ぐためにも、まずは製造業特有のROI算出の複雑さを理解する必要があります。製造業のAI投資効果測定には独特な複雑さがあります。基本的なROI計算式は「ROI(%)= 利益 ÷ 投資額 × 100」ですが、製造業では単純計算では測定できない要素が存在するのです。

①短期効果と長期効果の複合性
製造業のAI導入は、設備の耐用年数が10-20年と長期にわたるため、短期的な効率化効果と長期的な競争優位性確保の両面を同時に評価する必要があります。

②直接効果と無形価値の併存
製造業においては数値化しやすい「コスト削減」と定量化が困難な「リスク回避・信頼性向上」が同時に発生します。不良率改善は材料費削減という直接効果と、顧客信頼維持や品質ブランド価値の向上という無形価値の両方を生み出すためです。

このような特殊性を踏まえ、製造業のROI測定では従来とは異なるコスト構造の理解と測定フレームワークが必要になります。

製造業においてAIのROIを正しく測るには、従来の設備投資とは異なる「測定の考え方」を把握することが、ROI最大化への第一歩となります。

導入計画フェーズ別のコスト構造とROI設計

AI導入のROI評価では、 現場調査・可能性検証・全体計画の3段階プロセスに応じたコスト特性の理解が重要です。各フェーズの詳細は前の記事で解説していますが、 ここでは特に「各フェーズでのROI測定目的の違い」に焦点を当てます。

現場調査フェーズでは経営・現場課題の明確化が中心となり、課題の抽出精度が後続の結果を左右します。可能性検証フェーズでは、AI導入の投資効果や技術的実現可能性を確認します。経営インパクト評価やROIシミュレーションを通じて、成果を経営判断につながる形で整理することで全体計画フェーズ進行の判断を可能にします。全体計画フェーズでは選定テーマでのAI導入後の状態を明確化し、ロードマップ構築と継続的なコスト管理がROI改善の鍵となります。

言い換えれば、各フェーズでROIの「測定目的」は異なり、現場調査では「投資可能性」を、可能性検証では「実現可能性」、全体計画では「継続的収益性」を評価する必要があるのです。

短期ROIと長期ROIを区別する製造業向け測定フレーム

続いて、時間軸による効果の「質的違い」を明確に区別する測定フレームをご紹介いたします。短期と長期のROI測定フレームです。

短期効果(1-3年)は人件費削減やエネルギーコスト削減など「効率化による直接的収益」が中心で、経営会議での投資承認において説得力を持ちます。

長期効果(3-10年)は技能継承や競争優位性構築など「無形価値による間接的収益」が中心となり、定量化の難しさから見落とされがちな観点です。

短期効果は数値として把握しやすい一方、長期効果は定量化が困難ですが企業価値への影響は甚大です。短期効果のみを追求すると、持続的な競争力構築を見逃すリスクがあります。

経営判断において重要なのは、短期効果で投資回収を確保しつつ、長期効果で持続的競争力を構築する「二段構えの設計」です。

この「二段構え」をどう評価するかも、役職によって見え方が変わります。CFOは短期ROIを財務判断の裏付けとして注視し、COOは現場改善の即効性を評価軸とします。CEOの視点では、長期ROIが競争力や企業価値をどこまで高めるかが判断基準となるでしょう。

【本記事とあわせて読みたい|実例から学ぶROI設計】
下記の記事では、本測定フレームをもとに実際の企業事例(Audi・BMW・Lighthouse企業群)を詳しく解説しています。
あわせてご参照ください。

前項で整理した「3段階のコスト構造」と「短期・長期の測定フレーム」を実践するには、製造現場で具体的に「何を測定するか」を明確にする必要があります。経営層が注視すべき投資効果測定指標は、設備効率・品質コスト・エネルギーコストの3領域です。いずれも共通して「現場調査→可能性検証→全体計画」というフェーズを踏んでROIを定量化します。以下では、それぞれの指標の特徴を解説します。

設備効率:OEE(設備総合効率)による稼働率改善と効果検証

OEE(Overall Equipment Effectiveness:設備総合効率)は、簡単に言えば『設備がどれだけ効率的に成果を生んでいるか』を示す指標です。時間稼働率×性能稼働率×良品率で算出します。
現場調査で現状OEEを把握し、可能性検証で改善可能性とROIを評価し、全体計画で導入ロードマップを策定することで、例えば短期的には予知保全によるダウンタイム削減、長期的には設備寿命延長と保全ノウハウのAI化による競争優位性構築が可能になります。

品質コスト:不良率削減による歩留まり改善

品質管理におけるAI効果は「不良率削減による材料コスト圧縮」として直接的にROI算出が可能です。「品質が上がった気がする」では経営層は動けませんが、『不良率1%改善=年間〇億円削減』と出せば議論は一気に進みます。原材料価格高騰の影響を受ける中[3]、品質改善による内部効率化は企業存続の鍵となります。
現場調査で不良率を把握し、可能性検証で改善効果のROIシミュレーションを実施し、全体計画でロードマップを策定することで、短期的には原材料コスト削減、長期的には品質安定化による顧客信頼向上が期待できます。

エネルギーコスト:効率化と環境対応

エネルギー効率化は、コスト削減とESG価値向上を同時に実現できる数少ない投資領域です。光熱費削減という即効性と、サステナビリティ経営への貢献という長期価値を兼ね備えています。
現場調査で使用パターンを把握し、可能性検証で省エネ効果の投資対効果を評価し、全体計画でエネルギー管理の導入ロードマップを策定することで、短期的には光熱費削減、長期的には企業価値の向上が可能になります。

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実際に自社のROIを試算してみたい方は、「簡易ROI設計テンプレート」をご活用ください。3指標の数値を入力するだけで、ROIと投資回収期間を自動算出できます。

製造業におけるAI投資の成否を分ける最大の要因は、「現場で成果を生み出す実行力」です。設備効率・品質コスト・エネルギーコストの3指標を同時改善する制御AIの適用例をもとに、ROI最大化の具体的な道筋をご説明します。

設備・品質・エネルギーを統合最適化

化学プラントにおける反応槽制御では、温度・圧力・原料供給量の複雑な相互作用により、最適制御が困難な状況があります。デジタルツインモデル(物理的な設備やプロセスをデジタル空間で再現したシミュレーションモデル)を活用した制御AIの適用により、3指標を同時に改善することが可能となります。

当社で化学物質製造工程における制御AI活用効果を試算したところ、生産停止リスク低減によるOEE向上、歩留まり改善による材料費削減、省エネ効果による光熱費削減を複合的に改善し、年間9,650万円のコストメリットが見込まれました。初期投資約3,000万円に対し、ROI 321%(導入1年後)(※1)という試算結果です。
この試算はあくまで短期的な効果に基づいたものですが、同時に技能継承や競争優位性の確立といった長期効果も期待できる領域です。長期効果は数値化が難しいものの、企業価値に大きな影響を与える観点であることを押さえておく必要があります。

※1)プラント規模:ポリエチレン製造(年間売上1,000億円、年間⽣産量10万トン、反応槽容量500m³、原料比率50%(年間500億円))として試算

今回ご紹介した試算は、化学プラントにおける反応槽制御を前提としたものです。ただし、鉄鋼の高炉制御や食品の発酵管理、自動車部品の成型工程など、複雑なプロセス変数を扱う点では共通する課題が多く見られます。そのため、本アプローチの考え方は他領域を検討する際の参考にもなり得ます。
なお、ご紹介した数値はあくまで化学プラントでの試算値であり、他業界での効果は条件により異なります。具体的な技術的アプローチや化学プラントケースでの具体的適用効果については、当社ホワイトペーパーにて詳しくご覧いただけます。

ROI最大化を実現する3つの導入フェーズ

前項でご紹介した化学プラントの適用例のようなROIを最大化するAI導入は、偶然の結果などではなく、段階を踏めば再現できる「仕組み」です。以下に、化学プラントでの試算のような結果を得るために、3つのフェーズをどう進めるべきかをご説明します。

なお、実際の導入プロセスでは、これら3つのフェーズ後に技術的な要件定義を行い、投資対効果が確認され、プロジェクト化が判断されたものについて小規模実証(PoC)を実施する流れとなります。本記事では経営層向けの観点から、意思決定に直結する3フェーズに焦点を当てて解説いたします。

現場調査フェーズ:「投資可能性」を短期・長期で数値評価
現場に潜む課題を数値で捉え、短期効果と長期効果の両面でAI投資の可能性を経営課題として定義することが最初の鍵です。現地オペレーション視察、工程別プロセス確認、キーパーソンへのヒアリング、データ取得状況の調査を通じて、「どの課題を短期的ROI算定の対象とし、どの効果を長期的価値として評価するか」を明確にします。化学プラントのような例では、温度・圧力変動による歩留まり低下や設備停止リスク(短期的コスト削減効果)と、技能継承や競争優位性確立(長期的価値創出の可能性)など、時間軸を区別して課題を特定することで投資判断の材料を整えることができます。 

可能性検証フェーズ:「実現可能性」を確認
「投資効果がどの程度期待でき、技術的に実現可能か」をROIシミュレーション、ボトルネック分析、技術実現性アセスメントを通じて確認します。化学プラントのような例では、デジタルツイン技術の適用可能性を評価し、年間9,650万円規模の短期的コストメリットという具体的な実現可能性を示すとともに(※2)、技能継承・品質安定化といった長期的価値創出の可能性も併せて評価することができます。

※2)プラント規模:ポリエチレン製造(年間売上1,000億円、年間⽣産量10万トン、反応槽容量500m³、原料比率50%(年間500億円))として試算

全体計画フェーズ:「継続的収益性」を時間軸で設計
可能性検証フェーズで確認できた投資効果を基盤とし、選定テーマでの確実な価値創出への道筋を含めた実装ロードマップを策定します。導入ロードマップの構築、短期目標と長期ビジョンを区別した成果設定、外部パートナーとの連携方針といった「時間軸を意識した設計図」を整えることが不可欠です。化学プラントのような例では、選定した工程での短期効果(効率化・コスト削減)で投資回収を確保しつつ、当該テーマでの継続的な競争優位性構築を目指す計画を策定することができます。

ROI最大化を実現するパートナー選定の重要性

適切なプロセスを経れば確実なROI改善が可能ですが、自社努力だけで成功に至るには限界があります。製造現場の複雑なプロセスを深く理解し、経営層が納得できる形でROIを設計・実証できる総合的な能力を持つパートナーの存在が鍵となります。パートナー選定の具体的な基準については、下記の関連記事で詳しく解説しています。

製造業のAI投資ROIを最大化するには、「測定フレーム」「評価指標」「進め方」を体系的に捉えることが重要です。

① 測定フレームの理解
短期効果(1〜3年)と長期効果(3〜10年)を区別し、直接的収益と無形価値の両面からROIを設計する。

② 3つの評価指標の活用
設備効率(OEE)、品質コスト(不良率削減)、エネルギーコストを総合的に評価し、成果を定量化する。

③ 3フェーズ設計とパートナー連携
現場調査→可能性検証→全体計画の各フェーズでROIの測定目的を明確化し、技術力と業界知見を備えたパートナーと連携する。

当社が化学プラントを対象に実施した試算では、初期投資約3,000万円に対しROI 321%(導入1年後)という結果を得ました。このような成果は偶然ではなく、本記事で紹介した測定フレームとフェーズ設計を正しく適用することで再現可能です。

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なお、本記事で紹介したROI設計の考え方をそのまま適用して試算できるExcelテンプレートをご提供しております。自社データを入力するだけで、OEE・品質コスト・エネルギーコストの改善効果とROIを簡単に自動算出できますので、ぜひご活用ください。

本記事では「ROI設計」に焦点を当てましたが、AI導入を成功させるには、導入プロセスの全体像とパートナー選定も併せて検討する必要があります。

▼ ROI設計を実例から学ぶ
📄 製造業AIのROI事例を確認する
本記事でご紹介した測定フレームをもとに実際の企業事例(Audi・BMW・Lighthouse企業群)を詳しく解説しています。あわせてご参照ください。

▼ 導入プロセスの3要素を体系的に理解する
📄 製造業AI導入を全体で俯瞰し、ROIや企業選定まで含めて理解する
ROI設計が3要素全体の中でどう位置づけられるかを理解し、投資判断の全体像を把握できます。

▼ 導入プロセスの成功戦略を明確にする
📄 3フェーズのAI導入プロセスと経営層の具体的アクションを確認する
3つのフェーズ(現場調査・可能性検証・全体計画)で構成される導入プロセスと、各段階で経営層の皆様が下すべき判断を明確にします。

▼ パートナー選定の基準を見極める
📄 AI企業を比較・選定する際の6つの基準を確認する
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執筆者:エイシングPR事務局

【参考資料】

[1] 総務省「令和7年版 情報通信白書」 第Ⅱ部 第1章 第9節 AIの動向
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/pdf/n2190000.pdf

[2] SAS Institute Japan株式会社「SAS、アジア太平洋地域(APAC)におけるAI動向調査を実施」(2024年11月)
https://www.sas.com/ja_jp/news/press-releases/2024/november/data-and-ai-pulse-asia-pacific.html

[3] 経済産業省「2025年版ものづくり白書」
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/pdf/all.pdf